第120条:株主の権利行使に関する利益供与
1.株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る。以下この条において同じ。)をしてはならない。
この規制の趣旨
これは、いわゆる総会屋対策のための規定。
総会屋とは、株主としての権利(議決権など)を濫用して会社から金品をゆする者をいう。
総会屋は、株主総会を荒らしたり、または株主総会の進行に協力することの見返りとして会社から不当な利益を得ようとする。
そして会社もその要求に安易に応じてきた。
このような総会屋と会社との関係を封ずる趣旨。
会社資産の浪費を防止するため。
より広く会社運営の公正さや健全さを確保するため。
株式会社またはその子会社の計算において行われた利益供与は禁止される。したがって、代表とりしまりやくが自らの個人的な財産を持って利益供与を行った場合には、たとえそれが株式会社の名義で行われたとしても禁止されるものではない。
これは、利益供与を禁止する趣旨の1つとして会社資産の浪費を防止するためという点からすると、会社の資産に穴が空いているわけではないから。
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子会社の計算において行われたものにも拡張されている理由
平成12年の会社分割法制の改正により、会社分割や株式交換、株式移転を利用して親子会社が作りやすくなったことから、子会社の計算での利益供与が増加することが予想されたことを反映している。
「何人に対しても」とされており、「株主に対しても」とはされていない理由
これは、利益供与を受ける者を株主に限定すると、例えば、総会屋の妻、知人、その関係する会社などに利益を供与させて規制を免れる恐れがあるため。
財産上の利益とは
金銭に見積もることができる経済上の利益であって、その種類は問われない。現金・物品のほか、役務の提供、債務の免除、信用の供与、会社製品の値引きを受ける利益のようなものも含まれる。
これらの行為を規制すれば、総会屋の活動を抑え、会社資産の浪費を防止できると考えられている。
株主の権利の行使に関し
これは、株主の権利の行使に影響を与える趣旨でという意味である。
したがって、議決権の行使に影響を与える趣旨で金品を供与することが禁止されると理解すればよい。
株主の権利の種類は問われない。
通常は、株主総会における議決権、質問権、各種監督是正権のような共益権である。株式買取請求権のような自益権であってもよい。
私的自治の原則から、本来、会社は誰に何を渡そうが自由である。株主の権利行使に影響しないのであればそれは単なる贈与であり禁止される必要はない。
しかし、影響を与える目的があれば、それは総会屋への利益供与が懸念されるため禁止される。
「行使」には、積極的行使と消極的行使の双方が含まれる。
株主が権利を行使するように利益を供与することはもちろん、株主が権利を行使しないように利益を供与することも禁止されている。
どちらも禁止することで、総会屋を封ずる実効性が高まる。
判例は、会社が株式を譲渡する事の対価として何人とかに利益を供与しても、当然には120条が禁止する利益供与には当たらないとしている。(平成18年4月10日判決)
これは、株式の譲渡は株主たる権利の移転であり、それ自体は「株主の権利の行使」とは言えないからである。
とはいえ、判例は、会社から見て好ましくないと判断される株主(暴力団)が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で、当該株主(暴力団)から株式を譲受けるための対価を何人かに供与する行為は、「株主の権利の行使に関し」、利益を供与する行為にあたるとしている(平成18年4月10日判決)
暴力団の議決権行使に影響を与えることが見えるため。